夏休みを利用して東京に戻ってきた僕は、翔吾くんと会う約束を取り付けた。
冬にも帰ったんだけどその時は向こうの都合がつかなくて会えなかった。だからちゃんと顔を合わせるのは1年振りだ。親友と会うのは勿論楽しみなんだけど、久しぶりなせいか妙に緊張する。・・・いや、今は緊張の方が大きいかもしれない。
僕は複雑な気持ちで待ち合わせ場所の駅へ向かった。
代官山に新しくできたという珈琲専門店。翔吾くんのお気に入りらしい。
着席するなり彼は早速エスプレッソを頼んだ。
変わってないな。
皴一つないシャツに光沢感のある黒のパンツと服装は相変わらずシンプル且つスタイリッシュで、オールバックもばっちり決まっている。
通っぽいおじさんやサラリーマンが一人静かにコーヒーを嗜むようなこの場所に翔吾くんは嫌味な程よく似合っていた。傍から見たら絶対高校生になんて見えないだろう。
そして・・・彼に似てるのも相変わらず。でも眼鏡は細身の小綺麗なものじゃなく、黒縁のカジュアルなものになっていた。コレクションの一つなのかな?
僕はいまいちコーヒーの美味しさがわからないから取り敢えずアイスコーヒーを頼んだ。
「ファミレスの方がよかった?」「え?そんなことないよ。こんなシブいとこ、翔吾くんとじゃなきゃ来れないだろうし」「そう?ならよかった」
すぐに僕のアイスコーヒーが運ばれてきて、翔吾くんはミルクに角砂糖を4つもよこしてきた。
「そんなにいらないよ!」「はは、無理しなくていいよ。別に邪道だなんて思わないから」
翔吾くんはいつも僕を子供扱いする。
童顔なのは自覚してるし、翔吾くんからしたら同年代は幼稚過ぎるのかも知れないけど、僕まで同じように思われるのは何だか気に入らない。こう見えて結構色々考えたり悩んだりしてるのに。
僕は何だか反抗したくなって、ミルクだけをほんの少し入れて飲んでやった。・・・やっぱり美味しくない。流紗くんなら、迷わずあれ全部入れちゃうんだろうな・・・
「その様子じゃ順調とは言えなさそうだな」「えっ」
ぼんやりとコーヒーをかき混ぜていた僕はびっくりして顔を上げた。
「やっぱ鋭いね・・・」「黎夜が分かりやす過ぎるだけさ。君が悩むなんて彼の事ぐらいだろうしね」
確かに、僕は多分今人生で一番悩んでるかも知れない。でもそんなに思いつめてるように見えるのかな?
「うん・・・まぁね・・・。っていうかほとんど進展なし」「・・・本当に?付き合ってるんだろ?」「・・・一応ね。でも前と何も変わらないよ。好きなのは僕だけみたい」
翔吾くんは眉を顰めてコーヒーを啜っている。
「一緒にいても普通にゲームとかするだけでさ・・・僕から迫らなきゃ何もできないしまだ慣れてくれない。それに最近すごくモテだしてるんだ。学校じゃ僕とはろくに口も利いてくれないくせに女の子とはニコニコ笑って喋ってるんだよ」
男が相手の恋愛相談なんて翔吾くんにしか出来ないからか、一度切り出すと愚痴が止まらなかった。そしてどんどん僕は自虐的になっていく。
「何かもう自信なくなってきちゃった。好きだって言ってくれたのに・・・やっぱり体が男じゃ無理なのかな」
翔吾くんはしばらく黙って僕の愚痴を聞いていたが、3杯目のコーヒーを一口啜るとこう切り出した。
「黎夜。最近いつ自分でした?」
僕は意外な質問に一瞬耳を疑った。そして頭を捻ってみる。
「えっ?・・・・・・うーん・・・いつだっけ・・・。・・・先月かなぁ?・・・って何でそんな事聞くの?」
真面目に答えてはみたけど翔吾くんにこんな事を話すのは初めてで、僕は急に恥ずかしくなった。
「駄目だよ、ちゃんとしないと。ストレスは体によくない」
無性欲者なのかと思っていた翔吾くんの口からこんな言葉が出てくるなんて。でも言っている事はどこまでも冷静でまるで医者みたいだ。
つまり翔吾くんからすると、僕は単に溜まってるだけに見えるって事か。でも・・・。
「だってさ・・・、なんかそんな気になれないんだ」「どうして?」「してると、どうしたって流紗くんの事考えちゃうんだ。・・・それで終わった後すごく惨めな気持ちになる。付き合ってるのに、僕は想像でしか愛してもらえないんだって」
「それでいいじゃないか」
-え?
突き放すような言葉。心臓がすっと冷たくなったけれど、翔吾くんの目はまっすぐだった。
「そんなの僕はとっくに慣れた。辛いだろうけど我慢してても何もいい事なんてない、そんな風に自暴自棄になるだけだ。それじゃ余計に流紗君は離れていくよ」
「で、でも・・・・・・、僕は翔吾くんみたく強くない・・・、」
今更だけど、僕は相当ひどい事を言ってる。
翔吾くんは言わないけれど、彼の気持ちを知らない僕じゃない。
「ご、ごめん」
慌てて謝ったけど遅すぎるし、白々しいことこの上ないだろう。でも彼は気にしていないと言った風に首を横に振った。
「はっきり言うと、今の流紗君に黎夜の欲求を満たす事は出来ないと思う。黎夜の努力次第で何とかなるかも知れないけど・・・この切羽詰りっぷりじゃそれも難しそうだね」「うっ・・・」
「だからさっきも言ったけど、できない事を思い悩んでてもしょうがない。溜まるものは出して、黎夜は自分の欲求を満たしてればいいのさ。流紗君が子供過ぎるから、君が大人にならないとね」
ずっと頭の中にあったモヤモヤが、たった一言「欲求不満」の言葉で片付いてしまったのに自分の事ながら感動した。それを流紗くんに押し付けて、満たされないからヤケになって・・・。恥ずかしいけど僕って本当に子供だ。
やっぱり翔吾くんには適わないや。
「・・・うん。わかった・・・なんかすごくすっきりしたかも。ありがと」「どういたしまして。」
翔吾くんは涼しげな顔でコーヒーを飲み干した。
「でもさ・・・なんかこう言っちゃ悪いけど、翔吾くんも一人でするんだね」「は?」「だって今まで下ネタとか一度も喋った事なかったじゃない?翔吾くんは絶対そういうことしない人なんだと思ってたよ」
「・・・お前、僕の事なんだと思ってるんだ」「あははっ、ごめーん」
翔吾くんは失笑していたが、やがてまた落ち着きを取り戻して言った。
「確かにらしくない話をしてしまったな。・・・移動するか」「あ、うん!」
僕は飲みかけのコーヒーを一気に流し込むと席を立った。
こうして僕の心は随分軽くなった訳だけど、体の方はそうもいっていなかった。気持ちがスッキリしたせいか、今まで散々押さえつけていた欲がここぞとばかりに溢れそうになっていたのだ。なんて素直なんだろう、僕の体は。
「どこ行こうか?買い物?あ、今日は確か駅前で何かイベントがあったな・・・」
股間のムズムズを抑えながら僕は翔吾くんの問いかけに生返事をしていた。正直、今すぐ帰ってこの欲望を開放したいところだ。でも貴重な翔吾くんとの時間をそんなしょうもない理由で終わらせたくない。
(あ!)気の向くまま入った最寄りの駅で僕は救いを見つけた。「ちょっとトイレいってくるね!」
この分ならすぐ済む。僕は翔吾くんをその場に残しダッシュで駆けだした。
小綺麗で無駄に広いトイレには幸い人はいないようで、念のため個室も見て回ってから一番奥の扉を開けた。
「ふぅ・・・」
鍵をかけようと振り返ったその時。見覚えのある白いシャツが眼前に飛び込んできた。
「えっ!?な、何で??」
置いてきたはずの翔吾くんが目の前に立っている。うろたえる僕の問いに小さな笑みだけを返すと、後ろ手に鍵をかけた。
そして―――覆いかぶさってきた。
「わ!え、ちょっと」びっくりした僕は大声を出しそうになるが、ここは公共の場だと思い出し慌ててトーンを落とした。
「・・・手伝ってあげようか?」
耳元で低く囁かれた言葉にぞくりとする。
手伝うだなんて、そんなのダメに決まってるじゃないか!僕の顔はカッと熱くなって、何とか押し退けようとして腕に力を入れてみたけど、それを拒むように更に強く抱きすくめられてしまった。
「しょ、翔吾くん・・・っ」
熱い。若干冷房が効いているとはいえ真夏のこんな狭い個室の中だ。でもこの熱さと圧迫感は不思議と不快じゃなく、むしろ心地いいとさえ感じる。
・・・流紗くんはこんな風に抱きしめてはくれない。一度だけしてくれた時はすごく震えてたな・・・・、あれ、今も震えてる・・・?
「っ!」
もうどうやっても言い逃れできないくらい勃起してしまった僕のアレが、翔吾くんのお腹の辺りに当たった。布越しなのにその刺激は強すぎて思わず腰を引いたけど、狭い個室に僕の逃げ場はなかった。すかさず追い駆けられて太腿を押し付けられる。
「んんぅっ!・・・だ、ダメっ、もう・・・っ・・・」恥ずかしいけどたったそれだけでイキそうだった。なのに・・・
「気にするな、一人でしてるのと変わらないよ。でもどうせするなら気持ちいい方がいいだろ」
「あ・・・」 ふっと体の力が抜けた瞬間いきなりズボンの中に手を突っ込まれ、抵抗する間もなく僕はあっけなく果ててしまった。
「はぁっ、はぁっ・・・」
翔吾くんと壁に挟まれ、僕は荒い息を吐いた。
「すごいよ、見てごらん。こんなになるなんて相当溜まってたんだな」翔吾くんはそう言うと手のひらを差し向けてきた。むせ返るような濃い臭気に僕は思わず顔を背ける。「うぇ、ちょっ、見せなくていいから!」
・・・でも変だ。いつもなら1回出せば終わるのに・・・、全然疼きが消えない。むしろ血流はさっきより活発になってどんどん下半身に集まってる。下を見てみるといつの間にか剥き出しになっていた性器が解放を求めて僕を見上げていた。
「やっ、やだ、、なんで・・・」恥ずかしくてほっぺたが焼けそうだ。目の前の翔吾くんの顔も暑さのせいか、心なしか上気しているように見える。
「治まるまで、抜くしかないだろ」
再び翔吾くんは僕のものを握り、強く上下にしごいた。
「ん、んぅっ、、ふぅっ・・・、」
さっき自分で出したものなのか、それとも先走りなのか?ひどく粘着質な音が耳につく。一度達しているせいか僕はさっきより敏感になっていて、意識していないと声が漏れてしまいそうだった。
「ね・・・っ、何か、盛った?」「馬鹿。そんなことする訳ないだろ」ふっと噴出すとと彼は手の力を強め、先の部分を絞るように強く刺激してきた。ずるんと皮が剥けたのがわかって、その刺激で僕は思わず声を上げてしまう。
「はぅっ!う、んんんっ、・・・」
翔吾くんの胸に強く顔を押し付けて、何とか声を抑えた。もう立ってるのも辛い。・・・なのに翔吾くんはそのままの姿勢でどんどん僕を追い詰めてくる。
・・・このままだとまた一方的にイカされてしまう。何だかちょっと足掻いてみたくなって僕はそっと翔吾くんの股間に手を伸ばした。
「んっ!?」
・・・やっぱり。彼のものもズボンを突き破らん勢いで膨張している。我慢してるのはどっちだよ。
「一緒にっ、・・・しようよ・・・、」僕は返事を待たずファスナーを下ろし、湿ったパンツの上から翔吾くんのモノを握った。・・・すごい重量感。
「・・・いいのか?」「・・・溜まったものは出さなきゃ・・・でしょ?」
翔吾くんは片手で器用にベルトを外し自身を取り出すと、僕のものと一緒に握りこんだ。
「んはっ・・・」
翔吾くんの熱と脈動が直に伝わってきて、また声がでる。少し動くと僕と翔吾くんのが擦れて・・・目がチカチカするくらい気持ちいい。彼は突然火がついたように激しく腰を動かし始めた。
「うっ、あっ、・・・っん、あんッ」
はち切れそうなアレを思い切り押しつぶされる。ちょっと痛いのにそれすらも気持ちよくて・・・特に翔吾くんの大きいカリ、アレでむき出しの亀頭をこすられるとほんとに声が抑えられなかった。がんがん込み上げてくる射精感に、ここは外なんだっていう一欠けらの理性すら吹っ飛びそうになる。
「しょ、ごくん・・・っ・・・、も、声、でちゃ・・・」「ん・・・」
僕の願いはすぐに届いた。熱い舌が一気に割り込んできて、僕のをさらって、強く強く吸い上げる。
「ん、んぅゥ――!」
上と下から同時にスパートをかけられ、僕は上り詰めた。漏らしたのかと思うくらい大量の熱いものが下半身を伝ってる。ズボン大変なことになってるかも・・・と焦ったけれど意識が勝手に遠のいていって、もうその後はよく覚えてない。
僕らがイベント会場に着いた頃にはもう終了時間を過ぎていて、人もだいぶ減り後の祭りムードだった。でも今日これがあってほんとによかったと思う。じゃなかったらあの行為を絶対誰かに聞かれただろうから。
「残念だったな、GAY48の握手会」そんな事微塵も思ってない癖に彼はそう言う。さっきのあの余裕のない表情は幻だったのかと思うくらいいつもの翔吾くんで、僕はすこし安心した。
「ねぇ、さっきのアレ、浮気になっちゃうかな」
まばらな人の波に合わせて歩きながら、僕は尋ねてみた。
「気持ちが伴ってなければ、ならないさ」
翔吾くんらしい答えだ。でも僕は少し戸惑ってしまう。
顔が似てるから錯覚しそうになった事は何度かある、でも今の気持ちはその時みたいにはっきり否定できない。
流紗くんがくれないものを全部くれる。どんな時でも冷静で頼りがいがあって、僕の事を一番に考えてくれてる。
今の答え方だって僕を気遣ってくれたんだろう。でもこの気持ちをそれに当てはめるなら、僕は・・・?
どちらともなくはたと足が止まる。翔吾くんが感情の読めない表情で僕を見下ろし、やがてゆっくり顔に手が伸びてきて、僕は思わず目を閉じる。
・・・でも、翔吾くんがしてくれたのは期待したのとは別のところだった。頬を軽く啄ばむと彼は「そんな顔をするな」と困ったように笑った。
「こんな事で流されてちゃダメだろ。本当に黎夜は子供だな」「なっ!ひど!」「・・・でも、流されたのは僕も同じだ」「・・・へ?」
どういう事だろう・・・?少し考えれば分かりそうだったけど、今はわからないフリをしていた方がいいような気がした。今日の出来事の結論を出すのはまだ早いんだ、きっと。
「じゃ、今日はお互い溜まってたんだって事にしよう!」「・・・っはは、そうだな。そうしよう」
僕らは笑って、何事もなかったように歩き出した。
【終】
あとがき→
なんかスケベなのが書きたくて・・・
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